前の記事はオペラの誕生についてでしたね。バロック時代には、もう一つの新しいジャンルが生まれました。オーケストラ曲の誕生です。 ルネサンスまでに歌が中心でしたが、バロックの後期には器楽曲が声楽曲と同じぐらい人気ジャンルになります! 楽器 バロックオーケストラの編成(管弦楽編成)はある程度決まっています。 ★ 弦楽器、木管楽器と通奏低音の3つのセクションがあります。 ★ 祝祭的な曲のときに金管楽器(トランペットなど)と打楽器を加えます。 それぞれの楽器を見てみましょう: 弦楽器:第1+2ヴァイオリン、ヴィオラ、通奏低音:チェロ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、ヴィオローネ、コントラバス 木管楽器:オーボエ(オーボエ・ダモーレ)、フラウト・トラヴェルソ(曲によってはリコーダー)、オーボエ・ダ・カッチャ(イングリッシュホルンの先祖)、ファゴット(旋律楽器として・・または通奏低音として) 通奏低音 低音部の旋律のみ:チェロ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、ファゴット (チェロの補強として)、コントラバス(またはヴィオローネ) 通奏低音 低音部の旋律と和声:チェンバロ 、ポジティフ・オルガン (宗教的な曲)、リュート、テオルボ 金管楽器:トランペット(祝祭的な曲)、ホルン 打楽器:ティンパニ (祝祭的な曲、トランペットとセット) 通奏低音 通奏低音とは、バロック音楽に行われる伴奏の形態です。楽譜上では低音部の旋律と和声の数字のみが示されます。奏者は低音部に適切な和声を即興で奏でます。 ポピュラー音楽に似ています。メロディに「コードネーム」が付いています。奏者がコードネームを見て適当に即興します。ポピュラー音楽はメロディと和声の番号です。バロックはバスの旋律と和声の番号です。 音楽ではイタリア語のバッソ・コンティヌオ (Basso Continuo -BC) の言葉を一般的に使います。 略してコンティヌオと呼ぶことも多いです。ドイツ語でゲネラルバス (Generalbass) とも呼ばれる。 通奏低音の演奏には、オルガン、チェンバロなどの鍵盤楽器や、リュート、テオルボなどの撥弦楽器といった和音の出せる楽器が使われます。しばしばヴィオラ・ダ・ガンバ、チェロ、ヴィオローネ、ファゴットなどの低音旋律楽器が併用されます。一般には楽譜に演奏楽器の指定は無く、演奏時にこれらの楽器を任意で選択します。 通奏低音の曲だと作曲家が奏者に自由を与えてくれるので、バロック音楽の通奏低音による即興演奏のはバロック音楽の大きな魅力です。古典派から通奏低音の演奏が消えます。作曲家が演奏して欲しい音を全部楽譜上に示されます。 協奏曲の誕生 これから2つのジャンルを見てみましょう。コンチェルト・グロッソ (合奏協奏曲)とコンチェルト(独奏協奏曲)。 音楽史12「ルネサンス後期 器楽の音楽」にヴェネツィア楽派と分割合唱の話をしましたね。 大きな教会で2つの合唱団で「ワイドステレオ」の効果を作ることでした。 同じヴェネツィアでは楽器のアンサンブルを2つのグループに分けて曲を作りました。 2つのグループが時々ひとり・・時々合わせて演奏します。 この作法のお陰で色々の強弱(Forte-Piano)や響きのヴァリエーションを表現することを出来るようになりました。 音楽史12にイタリアのジョヴァンニ・ガブリエリのピアノとフォルテのソナタ(1597年)をもう一度に聴いてください。 協奏曲への道 コンチェルト・グロッソ (合奏協奏曲) ガブリエリのピアノとフォルテのソナタを聴きますとピアノとフォルテの「対比」やフレーズの「交替」や「かけ合い」を効果的に作っています。 バロック作曲家がこのスタイルをアンサンブルではなく、オーケストラで使用します。 これはコンチェルト・グロッソと呼びます。 コンチェルト・グロッソには ★ 小さなソロ楽器群(コンチェルティーノ concertino)+通奏低音 ★ 大きなオーケストラの総奏(リピエーノ ripieno・・コンチェルト・グロッソとも呼ぶ )+通奏低音 2つのグループに分かれ、2群が交替しながら演奏する楽曲のことです。 全員が演奏するとtutti(トゥッティ)と呼びます。 ソロだけか・・オーケストラだけか・・ソロ+オーケストラの全員(トゥッティ)が演奏すると音色や音量のヴァラエティも生まれます。 初期のコンチェルト・グロッソの曲は通常は4 - 6楽章によって構成されている。 有名のコンチェルト・グロッソを聴きましょう。コレルリ作曲 合奏協奏曲 「クリスマス」Op.6 , no.8 アルカンジェロ・コレッリ(Arcangelo Corelli, イタリア 1653年 - 1713年) 最初の有名な合奏協奏曲の作曲家は、コレッリです。 コレッリの死後、彼が作曲した12の合奏協奏曲(1680年ごろ)が1714年に出版され、すぐにヨーロッパ中に広まった。彼の作品は多くの人々により賞賛され、また模倣された。ヴィヴァルディもコレッリから強い影響を受けました。 コレッリのコンチェルティーノは2本のヴァイオリンと1本のチェロ(通奏低音)によって構成される。 リピエーノは弦楽アンサンブルと通奏低音になります。この通奏低音の楽器が決まっていないですが、オルガンやリュートやチェンバロやテオルボ(リュート族の撥弦楽器)を使用することが多いです。 コレッリのもっとも有名なコンチェルトは、先ほど聴きましたクリスマス協奏曲と呼ばれる8番 ト短調です。 この曲は烈しいアレグロと、通常はクリスマスイヴにのみ演奏されるべきパストラーレで閉じられる。 しかしこのパストラーレは大変に人気があるため、時節に関わらず演奏されることがある。(ビデオの10分33秒のところ) 教会コンチェルト ー 室内コンチェルト コレッリの時代には、大きく異なる2つの合奏協奏曲の様式がありました: 教会コンチェルト(concerto da chiesa) 教会のミサ音楽ではないですが公的な場で演奏されます。室内コンチェルトよりもう少し真面目です。 形式的には 1遅い(ラルゴもしくはアダージョような前奏曲)楽章 2早い(フーガようなアレグロ)楽章 3遅い表現強い旋律的な楽章 4速いアレグロにより構成されている。 室内コンチェルト(concerto da camera) 組曲に近い性格を持っており、前奏曲による導入部と、当時流行していたいくつかの舞曲から構成されている。 ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル ヘンデルも合奏協奏曲を作曲しました。ヘンデルの合奏協奏曲を聴きましょう: J.S.バッハ ブランデンブルク協奏曲 J.S.バッハもブランデンブルク協奏曲を大まかに合奏協奏曲の形式に沿って作曲しています。 これからの第2番と第5番を見てみましょう。特に使う楽器(編成)に注意しましょう。 第5番 ニ長調 BWV1050 第1楽章にはチェンバロはフルート、ヴァイオリンを支えながらも途中チェンバロ協奏曲の前身ともなる長大なカデンツァに突入する。 第2楽章は独奏楽器群のみでの演奏。 第3楽章はフーガ風に曲が展開されてゆく。 編成 独奏楽器群:フルート、ヴァイオリン、チェンバロ(通奏低音) 合奏楽器群:ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ヴィオローネ 第2番 ヘ長調 BWV1047 第2番は管楽器リコーダー、オーボエ、トランペット、そして独奏ヴァイオリンによるコンチェルティーノを持っている。 第1楽章には独奏楽器それぞれにソロが均等に与えられる。 第2楽章はヴァイオリン、オーボエ、リコーダーがカノン風に旋律を奏でる。トランペットは完全休止。 第3楽章主題が独奏楽器によってフーガ風に展開される。 編成 独奏楽器群:トランペット、リコーダー(flûte à bec)、オーボエ、ヴァイオリン(ソロ) 合奏楽器群:ヴァイオリン1+2、ヴィオラ、ヴィオローネ、通奏低音(チェロとチェンバロ) リトルネッロ形式 バロック時代の合奏協奏曲や独奏協奏曲に多く見られた形式です。 協奏曲には2つのグループが交替したり・・かけ合ったりしますと曲の構成や整理に色々の問題が発生します。 曲の良い構成を作るには作曲家がリトルネッロ形式を使います。 リトルネッロのは主題を何度も繰り返しながら進行します。例えば、A-B-A-C-A ロンド形式と似ていますが、ロンドの場合にロンド主題が毎回同じ調性(主調)で演奏されます。 リトルネッロ形式では、楽曲の最初と最後以外は主調以外の調で演奏される。 主題の調性を変える、または長調から短調に変えますと、音楽の雰囲気が変わります。何度も繰り返しても飽きないです! リトルネッロ形式はアントニオ・ヴィヴァルディの協奏曲「春」などに特徴的で、 独奏協奏曲 コンチェルト・グロッソには通奏低音が2つがあります。2つのグループがはっきりに独立しています。 コンチェルティーノ(独奏楽器群):チェンバロやオルガンやリュートによる通奏低音 リピエーノ(合奏楽器群):チェロ、ヴィオローネの低音の旋律による通奏低音 バロック音楽後期の17世紀末には、2つのグループが1つの通奏低音を共通して使いますと「独奏協奏曲」になります。後期バロックではこの形が主流になります。独奏協奏曲では、1つのソロ楽器か複数のソロ楽器が可能です。例えば、2つのヴァイオリンのための協奏曲があります。 最初の独奏協奏曲(1698年ごろ)はイタリアの作曲家たちジュゼッペ・トレッリとトマゾ・アルビノーニからの協奏曲です。 トレッリのクリスマス協奏曲 作品8-6 (1709年)はとても美しいです。リンク先:https://www.youtube.com/watch?v=kD1R3jUmPJs アルビノーニのオーボエ協奏曲もとても有名です。リンク先:https://www.youtube.com/watch?v=WMLSwqAOzHo アントニオ・ルーチョ・ヴィヴァルディ(Antonio Lucio Vivaldi, 1678年 - 1741年) 「四季」は、アントニオ・ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の試み』 作品8のうち 第1から第4曲の「春」「夏」「秋」「冬」の総称。各楽章にはヴィヴァルディ自身から(?)のソネットが付されています。 3楽章制 各曲はそれぞれ3つの楽章から成り立っています。 ヴィヴァルディの影響で「急―緩―急」の3楽章制が確立されました。 ヴィヴァルディはコンチェルト・グロッソを60曲、独奏協奏曲を425曲(の内に350曲のヴァイオリン協奏曲)作曲しました。 ヴィヴァルディの曲の中の独奏の高い技術が求められています。ヴィヴァルディの影響でヴィルトゥオーソの演奏がこれから流行になります。 最後に・・・ バッハのヴァイオリン協奏曲とチェンバロ協奏曲も素晴らしいです。 2時39分からの2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043の第2楽章は美しいです。 4時06分31秒からチェンバロ協奏曲 第5番 BWV 1056 ヘ短調の第2楽章も有名です。